元カレにかけられた言葉
「ごめん。お前性格きつくて無理だわ」
知らない女を引き連れながら、私にこう言ってきました。
「別れよ」
当時付き合っていた彼からの、一方的な破局。
ずっと好きな人ができない私の、最後の恋愛でした。
数年後…
恋愛はごぶさたですが、仕事は順調です。
職場では自分の仕事にプラスして、後輩たちの育成に取り組んでいます。
そのため指導に力が入りすぎてしまうことも、しばしば。
恋バナが尽きない同期女子に比べて、仕事を頑張りすぎているのかもしれません。
彼氏はいらないなんて思っていないです。
もちろん、社会人としての恋もしたい。
でも、好きな人ができないと、そのスタートラインにも立てません。
職場の同期に声をかけられて…
「勝野さん!お疲れ様!」
最近、異動してきた同期の相山くんは、分け隔てなくやさしい性格の持ち主です。
「ちょっと根詰めすぎてない?」
「大丈夫です」
「またまたぁ~」
相山くんがポケットからなにかを取り出しました。
「じゃあこれ!」
手には、小さなアメ。
「頑張ってる勝野さんにプレゼント!」
思わずドキッとしました。
ご褒美のアメを貰うなんて、いつぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれない。
胸を少しだけ高鳴らせながら、アメを受け取ろうとしたとき、私の頭のなかに別れ際の元カレの顔が浮かびました。
「お前―――」
「無理だわ―――」
アメに触れる寸前で、ピタッと止まる私の手。
「や、やっぱりいいや。お腹いっぱいで……」
「そう?」
とくになにも気にしていない様子の相山くんが、話を続けます。
「良ければ今度、ご飯どう?」
「えっ?」
これは、2人きりでご飯に行くってこと?
あまり話したことないのに、突然すぎない?
でも相山くんは本当にやさしいし、きっと彼なら、、、
「えっと」
『お前、性格キツイからさー』
『大変なんだわ。ついていけねーよ』
鼓膜にこびりついた元カレの声。
相山くんの顔と、元カレの顔が重なって見えました。
「ご、ごめんなさい……!」
私は思わず、逃げ去るように走ってしまいました。
これじゃあ好きな人ができないどころか、友達もできないよ……。
相山くんとお喋りした翌日…
数年前、元カレに浮気されたことがきっかけで、あまり恋愛に積極的になれなくなってしまいました。
気になる男性が現れると、恋心のストッパーが強制作動。
言葉よりも、男性を拒絶する行動の方が先になってしまうのです。
仕事は好きだけど、結婚はしたい。
でも、好きな人ができない……。
そんな生活を何年も送っています。
昨日、相山くんから食事に誘われましたが、元カレを思い出してすっぱり断ってしまいました。
「だからって逃げるのは良くないよね……気まずい……」
朝からずっと頭が重い感じです。
社内の自販機に向かってふらふら歩いていると、こんな声が聞こえてきました。
「おー相山!お疲れ!」
えっ、相山くん近くにいるの……うわさをすれば……。
物陰から、男性社員と相山くんの会話をこっそり聞いてしまいました。
「お前の部署の勝野さん、キツイって噂だけど、美人なのに残念だな」
うっわ……私のこと話してる……。
相山くんは、どう思っているんだろう。
「んーまぁ……厳しいっちゃ厳しいね」
彼の本音を聞いた結果
ああ、そうか。
やっぱり男の人なんて、みんな同じことを思うよね。
昨日少しでもキュンとした自分が、バカみたい。
立ち話を盗み聞きしながら、気持ちがどん底に落ちていきます。
「あっ」
相山くんが会話を続けます。
「でも勘違いしないでよ」
勘違い?
「厳しいのは、俺らのことを思ってるからで、本当はすごく良いやつだよ」
目の前がパアと明るくなるような気分です。
深海に沈みかけていた私の心が、一気に明るい海の上に引き上げられたみたい。
もしかしたら相山くんは、そんなに悪い人じゃないのかもしれない。
少し勇気を出してみました
「相山くん!」
彼が一人になった瞬間を狙って、声をかけてみました。
好きな人ができないと悩み始めてから、初めて異性に話しかけるのに勇気を出したかもしれません。
「あれっ、勝野さん!」
相山くんは、予想以上に驚いていました。
「昨日は逃げちゃってごめんなさい」
なんか、ドキドキしてきた。
「あの、アメもらってもいい?」
相山くんは少し微笑んで、ポケットを探り始めました。
「もちろん!」
彼のこと少しだけ、信じてみてもいいかもしれない。